第7回 よい選択はどのようにすればよいのか?

「数理モデルAHPの意思決定活用に関する事例研究」という探究活動

[7-1] 今回の探究活動のコンセプト

皆さん、こんにちは。テラオカ電子です。皆さんは、親や先生から「もっとよく考えなさい」と、叱られたことがありますか?私は、いまでも、四六時中言われています。でも、よくよく考えると、そもそも「考える」ってどうすればよいのでしょうか?たぶん学校でも教えていないと思います。そこで、今回、第7回では、「合理的に考える方法」を探究した「数理モデルAHPの意思決定活用に関する事例研究」を紹介します。それでは、「合理的に考える」ということを探究していきましょう。

今回の探究活動のコンセプトは、2つあります。

昨今、「コスパ(コストパフォーマンス)」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重視され、その「自己責任」が支配する社会状況の中で、「そんな社会は優しくない」と全否定しても、漠然とした将来不安は消えません。そうであるならば、少しでも合理的に考える方法を知ることが「自己成長」に有効ではないかと考えました。それも、「表面的に学ぶ」のではなく、いろいろ体験しながら、試行錯誤しながらじっくり探究するのがよいのではないかと考えました。

もう一つは、前回(第6回「AIはハトに勝てるか」)の探究活動は、「教育者中心アプローチ」で私が主体となって進めましたが、今回は、「学習者中心アプローチ」で、生徒ができるだけ主体となって活動にした点です。

では、今回は、最初に【研究の背景と目的】を述べたあと、次に、【AHP(階層分析法)とは】【事例結果】【考察】まとめ】を述べ、最後に本探究活動の【評価】を述べたいと思います。

なお、今回も生徒がサイエンスコンテストで発表したものを、私が代読した形ですがYouTubeで公開しています。ご視聴いただくと研究の全体像を把握できます。

【テラオカ電子:「「数理モデルAHPの意思決定活用に関する事例研究」を公開します。」はこちらから】

[7-2]研究の背景と目的

3年生である生徒たちの最大の関心は、就職先の企業をどこにしたらよいかです。なぜならば、この選択が自身の将来の人生におおきく影響するからです。生徒たちは、2年生の3学期から、自身の興味・関心、給与などの労働条件や、企業の将来性など様々なことを検討して決めようとしていました。

しかしながら、この選択をどのように考えればよいかは、様々な要因が複雑に絡みあっているため簡単には決めることができません。親や先生のアドバイスにそのまま従ってしまったり、苦し紛れに直観に頼って安易に決めたりすると、後悔するかもしれません。

そこで、「課題研究」の時間に、数理モデル「AHP(階層分析法)」という感性評価を定量的に扱える方法を紹介しました。生徒たちは興味をもってくれたようでしたので、「このAHPを使うと良い選択ができるようになるのか?」、「そもそも直観というのは、全くあてにならないものなのか?」 また、「AHPの有効な使い方というのは、どういうものなのか?」これらの問いを検討することにしました。ここまでは、「教育者中心アプローチ」です。

研究では、2つの事例についてAHPを使って上記の問いを検討することにしました。この2つの事例は、生徒たち自身が相談して決めました。一つは、部活や体育で使う道具「ラケット」を購入したいが、どのラケットを購入すべきかの問題としました。これは、選択意思が単純である事例として設定しました。二つ目は、進路の相談を先生にしたいが、どの先生からアドバイスをもらうべきかの問題としました。これは、主観が複雑な事例として設定しました。

そして、これらの問題にAHPを適応した結果をもとに、まず、AHPの①階層で考えることの利点と限界、②一対比較法の利点と限界を整理します。次に、数理モデルAHPと直観との比較を行うことで、問いを考察します。

本研究は、私たちの2つの事例に基づく主観的考察に過ぎませんが、一つの事例研究として報告することを目的としています。

[7-3]【AHP(階層分析法)とは

AHP(Analytic Hierarchy Process :階層分析法)は、トマス・L・サーティ(Thomas L. Saaty)によって提唱されたモデルです。これは、人間のもっている主観である感性に基づいて意思決定を支援する方法(ツール)です。ちなみに、この方法が使われた有名な事例として、1996年から1997年に起きた、在ペルー日本大使公邸占拠事件で、政府の取るべき行動を階層分析法で検討したというのがあります。また、ウィキペディアによると、AHPは、「AHPを使うのに専門性や学術的なスキルは必要ないが、4年制大学の工学部やビジネススクールなど、多くの高等教育機関の重要な科目(「システム工学」等)の一つ」と紹介されていました。

(注)現在のウィキペディアを閲覧すると、「AHPを使うのに専門性や学術的なスキルは必要ないが、4年制大学の工学部やビジネススクールなど、多くの高等教育機関の重要な科目(「システム工学」等)の一つ」の記述は削除されています。

【ウィキペディア:「階層分析法」はこちらから】

一言でいうと、階層分析法とは、複数の評価基準からなる代替案の選択問題において、問題を「問題」、「評価基準」、「代替案」の3つの階層に分け、各階層において比較評価(一対比較)を行い、それを統合して総合評価にまとめる手法です。

計算手順は、以下の通りです。

① 問題を階層構造に分解する。
② 各階層において要素間の一対比較を行い,一対比較行列を作成する。
③ 一対比較行列から各要素の重み(重要度) を計算する。本研究では、幾何平均を使って計算した。
④ 各要素の重要度を統合し,総合的な評価を計算する。

本研究では、実際の計算は、表計算アプリ(エクセル)を使いました。AHPは、Webサイトで計算できるものもありますので、いろいろ検索して試してください。

なお、一対比較によって得られた数値は、2つの項目の価値の比較であるため、全体(3つの項目の場合3通りの比較)として整合性を持っているかを確認しておく必要があります。いわゆる、さすくみ状態です。一般に、これは、整合値CIとして計算され、一対比較行列の固有値を使うと正確な判断ができるとされています。しかしながら、本研究で使う表計算アプリでは固有値の計算が困難であるためその近似法で算出しました。

この近似法の計算ですが、まず、行列の各行に関して、その行の評価値の重みを掛け合計し、それを各行の評価値の重みで割り、各行の平均値を算出します。次に、その平均値から項目数を引き、(項目数-1)で割ります。不整合な行列であると、その値は大きくなります。一般的に0.15程度以下であれば許容できるとされています。本研究では、CIの値が高かった一対比較行列の場合は、再度比較をやり直すことにしました。ただし、やり直しても変わらない場合は、そのままの値としました。この近似法の計算方法は、刀根薫:『ゲーム感覚意思決定法 AHP入門』を参考にしています。ただし古い書籍なので(1986)、今手に入るかどうか分かりません。

[7-4] 事例結果

1 テニスのラケットの選択問題

部活や体育で使う「ラケット」を買うとき、悩んだ(失敗した)経験があったそうです。AHPを適応することによって良いラケットを選べるかもしれないとして設定しました。これは、選択決定が単純である事例です。

1.1 テニスのラケットの選択問題の定義

問題を階層化したものを図1に示します。問題は、購入すべきラケットの選択です。評価基準は、「デザイン」、「(ボールを跳ね返す)音」、「コントロール(どれだけ自在にボールを制御できるか)」と設定しました。代替案は、「ラケットA」、「ラケットB」、「ラケットC」の3種類としました。

1.2 テニスのラケットの選択問題のAHPの結果

図2に評価基準の一対比較結果を示します。表側で示す評価基準が主語、表頭で示す評価基準が述語を表すとします。例えば、行「デザイン」、列「音」の数字「3」は、デザインは、音と比較して、「やや重要」を意味しています。なお、評価尺度は、同程度重要ならば「1」、やや重要ならば「3」、重要ならば「5」、非常に重要ならば「7」、絶対的に重要ならば「9」です。これらの中間の重要さの場合は、それぞれ「2」、「4」、「6」、「8」と中間の値です。また、逆(否定)の場合、例えば、「絶対的に重要でない」場合は、その値の逆数「1/9」とします。

ここで図2の一対比較行列のCI値は、0.1837と0.15を超えましたが、再度比較をやり直しても変わらなかったのでこれらの値で総合評価を行いました。

同様に、代替案の評価基準「デザイン」の場合の一対比較結果を図3に、代替案の評価基準「音」の場合を図4に、代替案の評価基準「コントロール」の場合を図5にそれぞれ示します。なお、評価尺度は、同程度好ましいは「1」、やや好ましいは「3」、好ましいは「5」、非常に好ましいは「7」、絶対的に好ましいは「9」です。中間の場合や逆の場合は、評価尺度の場合と同じです。

最後に、総合評価の結果を図6に示します。結果として、選択すべきラケットは、ラケットA、ラケットB、ラケットCの順となりました。

2 アバイスを求める先生の選択問題

どの先生からアドバイスをもらうべきか?について問題を設定しました。これを考えた理由は、3年生になり、就職先を悩んでいたからだそうです。この問題は、主観が複雑にからみあっているので、複雑な問題もAHPが有効かどうかを確かめる事例として設定しました。ちなみに、生徒が、具体的にどの先生を想定していたか私は知りません。

2.1 アバイスを求める先生の選択問題の定義

問題を階層化したものを図7に示します。問題は、どの先生にアドバイスをもらうべきかの選択です。評価基準は、「好きか」、「わかりやすいか」、「話しやすいか」と設定しました。代替案は、「A先生」、「B先生」、「C先生」の3種類です。

2.2 アバイスを求める先生の選択問題のAHPの結果

図8に評価基準の一対比較結果を示します。同様に、代替案の評価基準「好きか」の場合の一対比較結果を図9に、代替案の評価基準「わかりやすいか」の場合を図10に、代替案の評価基準「話しやすいか」の場合を図11にそれぞれ示します。

ここで図8の評価基準の一対比較行列のCI値が0.4358と高くなりました。ここでも、再度比較をやり直しても変わらなかったそうです。これは、評価基準の「好きか」、「わかりやすいか」、「話しやすいか」が、お互いに相関関係が高いため(多重共線性の影響)だと思われます。今回は、この値のまま総合評価を行いました。

最後に、総合評価の結果を図12に示します。結果として、アドバイスをもらうべき先生は、A先生、C先生、B先生の順となりました。

[7-5]【考察】

考察です。以下のようにまとめました。

1 階層で考えることの利点と限界

階層で考えることの利点は、問題の論点を階層化して可視化するので、否応でも自分の考えを整理し、明確にできる点である。一方で限界は、評価基準を広くカバーするように設定しないと、偏った分析になってしまう点である。また、論点が大小含めて数多くある場合、今回のように評価基準を3つに絞ると詳細が反映されない点もある。この点は、AHPのモデルを複雑にすることで対応可能であるが、そうすると、次で示す一対比較が複雑になってしまう。加えて、評価基準の選定において、それらに相関が高いと比較がうまくいかないので、評価基準の選定は難しい。

ラケットの選択の事例のような単純な問題であれば、比較的階層化することは易しいが、アドバイスを求める先生の事例になると、評価基準をどのように設定するかで、様々な感情がからんできて設定に苦慮する。AHPでは、この問題の階層化が一番難しく、そして、その出来不出来がAHPの効果に影響すると言える。

2 一対比較法の利点と限界

3者間の比較は難しいが、一対比較法で使う2者間の比較は易しいと言える。ただ、ラケットの選択のような単純な3回の比較でも、矛盾を生じてしまった(CI値が高くなった)。したがってAHPのモデルを複雑にして複数回の比較を行うことは難しいと言える。

また、AHPは自分の意思決定の支援ツールなので、一対比較をする場合は、世間や他人がどう思うかではなく、自分がどう考えるかの一対比較を最初から最後まで一貫して行う必要がある。

3 数理モデルAHPと直観との比較

2つの事例において、数理モデルと直観とを比較した結果、選択結果は同じとなった。ただし、直観の選択は、いつも同じではなく、時期が変わると異なることがあったので完全に一致とは言えないが、まったく異なることはなかった。これは、数理モデルも直観も、自分の評価基準で決定しているので当たり前といえる。

しかしながら、直観は、人間の動物的本能判断であり、根拠もなしに選択される可能性もあるが、数理モデルの場合は、選択に時間をかけるので、冷静な評価が可能である。

以上の結果から直感は、自分が冷静であれば、それに頼よって良いと言える。AHPは、直感だけだと自身の意思決定が不安な時、AHPを使うことで納得感が得られる利点がある。

[7-6]【まとめ】

まとめです。本研究は、「AHPを使うと良い選択ができるようになるのか?」、「そもそも直観というのは全くあてにならないものなのか?」、また「AHPの有効な使い方というのはどういうものなのか?」という問いを設定し、2つの事例をもとに検証しました。

一つ目の事例は、部活や体育で使う道具「ラケット」を購入したいが、どのラケットを購入すべきかの問題でした。これは、選択意思が単純である事例として設定しました。二つ目の事例は、進路の相談を先生にしたいが、どの先生からアドバイスをもらうべきかの問題でした。これは、主観が複雑な事例として設定しました。そして、これらの問題にAHPを適応した結果をもとに、①階層で考えることの利点と限界、②一対比較法の利点と限界を整理した後、数理モデルと直観との比較を行うことで、問いを考察しました。

結果、階層で考えることについては、利点は、問題の論点を階層化して可視化するので、否応でも自分の考えがはっきり分かること。限界は、論点が大小含めて数多くある場合、3つに絞るので詳細が反映されないこと、加えて、各評価基準に相関があるとうまく一対比較行列ができないことを述べました。すなわち、AHPでは、この問題の階層化が一番難しく、そして、その出来不出来がAHPの効果に影響することが分かりました。

一対比較法について、利点は、3者間の比較は難しいが、一対比較法で使った2者間の比較は易しいことを述べました。ただ、ラケットの選択のような単純な3回の比較でも、矛盾を生じてしまいました。したがって、AHPのモデルを複雑にして多数回の比較を行うことは難しいことが分かりました。また、AHPは自分の意思決定の支援ツールなので、一対比較をする場合は、世間や他人がどう思うかではなく、自分がどう考えるかの一対比較を最初から最後まで一貫して行う必要があることを述べました。

最後に、数理モデルと直観との比較では、二つの事例において、数理モデルと直観とを比較した結果、直観と同じ結果になったことを示しました。

しかしながら、直観は、人間の動物的本能判断であるため根拠もなしに選択される可能性があるが、数理モデルの場合は、選択に時間がかかるので、冷静な判断が可能になることを述べました。

AHPは、直感だけだと自身の意思決定が不安な時、AHPを使うことで納得感が得られます。AHPは、将来の選択におけるより良い、そして自分に正直な問題解決のツールの一つであるといえます。

発明王エジソンは、「天才は、99%と努力と1%のひらめき」と言いましたが、重要な意思決定は、AHPのモデルで十分に時間をかけて検討し、最後の最後は、直感で決めるのが良いのではないと思います。

AHPは、主観的な意思決定を支援するツールです。主観的とは、主体的であるがゆえ自由で自律的であることを意味します。従って、主観的な意思決定や価値判断は、責任をともなうが、一人の人間としての見せ場であると言えます。一方でAIは客観的な判断しかできない。AHPは人間的なツールであると考えます。

[7-7] 【評価】

最後に、この探究活動の評価を述べたいと思います。

この研究も第6、7回で紹介した「AIとハト」の研究と同様、2つのコンテストに出しています。

一つは、県内の大学が主催する高校生対象のサイエンスコンテストです。

写真は、プレゼン発表の様子です。

もう一つは、読売新聞社が主催している日本学生科学賞です。こちらは論文審査だけですが、丁寧な講評が記載された「審査カード」を返してくれます。

「AIとハト」の研究の時と同様、「課題研究」の振り返りとして、これら2つの専門家からの講評をフィードバックとして生徒に伝えています。こうすることで生徒のメタ意識が高まり研究方法の理解が深まります。

サイエンスコンテストからの講評では、

大変興味ある研究でした。マーケティングなどに応用し、社会現象などを追えれば、もっと面白くなるのかと思いました。だた、ステージ発表、パネル展示については、本来担当すべき生徒が来れなかったなどの理由はあるかと思われますが、あまり良くなかったです。どちらについても、自分たちの言葉で話しているように見えませんでした。

テニスラケットの選択に関する問題と就職活動においてアドバイスを求める先生の選択に関する問題の2つが事例して提示されていましたが、AHPの分析結果は「問題」、「評価基準」、「代替案」の捉え方によって結果が大きく左右されると言えます。「問題」、「評価基準」、「代替案」を設定する際に注意すべきポイントを整理してみてはいかがでしょうか。

とコメントをいただきました。

また、日本学生科学論文賞の講評では、

階層分析法であるAHPに着目し、具体的な2つの事例を通してその効果や限界を検討した研究レポートである。それぞれの評価基準を設定し、一対比較表を作成するなど手順に従って分析をしたことは評価できる。一方で、AHP自体の評価・考察については、「著者らの2つの事例に基づく主観的考察」と自覚しているように客観性や評価の仕方についての課題がある。また、研究のきっかけとなった「就職先をどこにしたらよいか」という著者が抱える問題の解決に向けた検討がなされていないことは残念である。今後は以下の点をクリアし、着実にステージアップしてください。

具体的事例について、評価基準の設定の仕方をよく検討し、ツールとして活用できるよう研究を深めてください。その上で、自ら立てて(原文ママ)問いである、就職先を検討するためのツールとしての評価をおこなってください。

と講評をいただきました。

共通の指摘として、「問題」、「評価基準」、「代替案」の設定をどのようにするかがポイントである点がありました。これについては、色々な事例で使いこんでいく中で、言語化できそうです。生徒が実際の就職先の選択にAHPをどの程度活用したかは不明ですが、

・比較する場合は、2つで行うと良い(3つ以上だと難しい)。
・評価基準を明確にする。
・その上で総合的に評価する

の点は、感じ取ってもらえたと思います。

今回の探究活動は、生徒にとって適度にチャレンジングな課題であり、生徒が自分で決めた課題でもありました。まとめでは、私の方で「AHPは、問題の選択において経験や直観で考えることと、ある仮定のもとで色々シミュレーションして考えることを適度な粒度で橋渡ししてくれるモデル」であると紹介しました。最終的に期待を裏切らない納得できる結論の探究活動になりました。

また、この探究活動では、生徒のメタ意識を高めるために課題に取り組む目的や意義を繰り返し説明しました。また、課題が自分の未来に繋がっていることを意識させる問いかけもしました。さらに、生徒の発想に任せ、生徒の自己決定を手伝う姿勢で指導しました。

これで、「数理モデルAHPの意思決定活用に関する事例研究 -2つの事例における直観との比較からの考察-」の探究活動の紹介は終わりです。最後まで読んでくれて、ありがとうございます。

ご質問・ご意見・ご感想等がありましたらコメントください。

テラオカ電子 

(追記1)

人の思考に関して、心理学者のダニエル・カーネマンが、「システムⅠ」(直観的で速い(ファスト)思考)と「システムⅡ」(論理的で遅い(スロー)思考)を提示しています。どちらが優れているとかという問題ではなく、人は状況に応じて使い分けています。例えば、熊が襲ってきた場合、時間をかけて論理的に分析せずに、直観的に逃げるか戦うかを判断しなくてはなりません。AHPは、問題の選択において、人の感性を論理的に考える手法なので、「システムⅡ」に該当すると言えます。生徒にAIはどちらに近いですか?と聞くと、ほとんどが、「システムⅡ」と答えます。AIは、論理回路で動作するので、論理的に機能しているイメージなのでしょうか。AIは確率的に計算しているだけなので、論理的に推論しているわけではありません。したがって、AIは、「システムⅠ」に近いと考えられます。なので、AIに負けないようにするには(人間らしくあるには)、論理的思考を高める必要があると思います。

(追記2)

シーナ・アイエンガーは、『選択の科学』の「社長は長生きする」の中で、「・・・収入の高い仕事ほどプレッシャーが大きいにも関わらず、冠状動脈性心臓病で死亡する確率は、最も低い職業階層の公務員(ドアマンなど)が、最も高い階層の公務員の三倍も高かった。・・・仕事上の裁量の度合いが小さければ小さいほど、勤務時間中の血圧は高かった・・・」と述べています。選択問題では、自己決定ができるかどうかがストレスに一番影響するいうことです。今回の事例では、選択の悩みをAHPを使って解決する探究活動だったわけですが、そもそも、「選択」ができる時点で、幸運だとも言えます。昔、ストレスチェックの電子工作を作っていましたので、こちらもご視聴ください。

【テラオカ電子:「ストレスチェック」はこちらから】

【イチオシのYouTube動画】

不確実で予測できない時代の中で、どのような選択をすればよいのでしょうか。小沢健二は『流動体について』の中で、「神の手の中にあるのなら その時々にできることは 宇宙の中で良いことを決意するぐらいだろう 無限の海は広く深く でもそれほどの怖さはない 宇宙の中で良いことを決意する時に」と歌っています。

【2023/11/27投稿】

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