第24回 コンセプトを作ってみませんか?

第24回 コンセプトを作ってみませんか?

「孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キットの開発(6)

~水準器を使って操作性を向上させた「共同作業ゲーム」~」の探究活動

皆さん、こんにちは。テラオカ電子です。

ビジネスの世界でコンセプトという言葉が広く使われています。ここで「孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キット」というのは、当時、この「コンセプト」で教材を準備していました。今回は、この「コンセプト」について述べたいと思います。

ところで、第20回のブログ記事で、現在、私がチーム4名で「学校のクラス分けを、量子コンピュータを使って最適かつ短時間にできるWebアプリ」を開発していることを紹介しました(この活動については、別の機会に詳しく紹介する予定です)。このプロダクトを3月にプレゼンするのですが(「デモデイ」と呼んでいます)、ここで、プロダクトの「コンセプト」が明確になっていないといけないので、改めて、コンセプトについて勉強しました

色々な勉強の仕方がありますが、今回は、吉田将英さんの書籍『コンセプト・センス』を使ってコンセプトを整理しました。この本のサブタイトルは、「正解のない時代の答えのつくりかた」とういうもので、今の時代にマッチしたものだと感じました。読んで大変参考になりました。そこで、この本に沿って、「孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キット」のコンセプトを再定義したいと思います。

この本では、コンセプトを以下のように定義しています。

「コンセプトとは、社会の既存の「当たり前」が見落としてきた、人々がまだ自覚できていない 満たされていない欲求を満たし、理想の社会に今より近づくための「提案の方向性」のことであり、同時にアイデア創造の源泉であり、企画の骨子でもあります。」

この意味を深く理解するには、本を読む必要があるのですが、ここでは解説を省きます(興味のある方は書籍を購入してください)。ここでは、コンセプトの作り方として、「コンセプト構文」というものも提示されていますので、これを使って私のコンセプトを紹介します。

まず先に、書籍には、「コンセプト構文」の例として、キャチコピーが「会いに行けるアイドル」で有名なAKB48のものが紹介されていますので引用しておきます。

アイドルのファンたちは 本当は
もっと近い距離感で応援したいのに
アイドル業界の常識である
遠いからこそ憧れるという考えは それを見落としている
だから本企画は 会いに行けるアイドルという
コンセプトでアイドルとのかつてない距離感を提供する
その先に偶像ではなく、実社会とかかわれるアイドルをデザインし
誰もが自分の人生に前向きになれる社会の実現を目指す

私は、AKB48のことを、かなりメジャーになってから知りましたので、デビュー当時のこのコンセプトは、経済学か何かの書籍で読みました。発想の転換の上手さに感心したのですが、あくまでも結果論からの印象です。

では、これにならって、先に述べた、「学校のクラス分けを、量子コンピュータを使って最適かつ短時間にできるWebアプリ」のコンセプト構文を以下のように作りました。

学校の先生たちは、本当は
もっと生徒のことを考えたクラス分けをしたいのに

クラス分けの事務的な作業に捕らわれ
本来配慮が必要な生徒を重点的に検討するということができないでいる

だから本企画は、量子技術を使ったクラス分けを適切・簡単にできるアプリを提供し、
事務的作業を低減する

これにより、配慮が必要な生徒を含めて偏りのないクラスをデザインし、
生徒がクラスで主人公になれる社会の実現を目指す

となります。ぴったり、空欄にはまっていませんが、うまく整理できたと考えています。
補足ですが、今回のアプリが解決する課題を、私たちは以下のように考えています。

従来は、成績、男女によって、クラスを均一に振り分けたあと(ここはエクセルで簡単にできます)、次に、特別に配慮が必要な生徒たちを入れ替えていました。

ここで、問題となるのは、配慮が必要な生徒を後で入れかえると、クラスのバランスが崩れてしまうことです。これだと、担任は困りますし、教科担当も、成績の良いクラスと悪いクラスができて、同じ教え方ができません。ちなみに、私が以前私学で数学を教えていたとき、教務主任から「特進クラスと普通クラスでは、同じ教え方をしないでください」と注意されたことがあります。

そこで、今回提案するアプリを使えば、事前に配慮が必要な生徒をクラスに固定したのち、アプリで均一になるように振り分けますので、クラスのバランスが崩れることがなくなります。よって、この問題を解決できます。

最後の部分の「これにより、配慮が必要な生徒を含めて偏りのないクラスをデザインし、生徒がクラスで主人公になれる社会の実現を目指す」のところは、私たちのビジョンを示しています。

そこで、このアプリの名前を、生徒が良いクラス環境の中で幸せになって欲しいとい願いを込めて、「HomeRoom シンデレラ」としました。もちろん物語の「魔法」が、このアプリになります。

では、いよいよ、今回の「孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キット」をコンセプト構文で整理します。

高齢者たちは 本当は
もっと孫とゲームをして交流したいのに
電子ゲームの常識である
子どもが一人で楽しむという考えはそれを見落としている
だから本企画は孫が作る電子ゲームという
コンセプトで、孫と一緒に楽しめるゲーム体験を提供する
その先に孫と祖父母の関りが増えることをデザインし
家族の絆が強くなる社会の実現を目指す

となります。高齢者と、孫にあたる高校生を繋げたコンセプトにしました。

本では、コンセプトを明確にすると、5つの効果があると紹介されていますが、その一つが「羅針盤があるからこそ散策ができる」です。今回紹介する探究活動では、このコンセプトから導かれるいくつかのアクションが実践されました。

以前に開発した電子ゲームに新たな可能性を付加して制作したこと。また、評価のために高齢者施設を訪問したり、中学生体験入学でアンケート調査をしたりしたことです。上記のようにコンセプトが明確であったので、これらの活動は、必然性をもって行われました

最後に、いつものように、生徒が学科の成果発表会で発表した内容を私が代読した形ですが、YouTubeで一般公開しました。以下のリンクから動画を視聴できます。見て頂けると後の話が良く分かると思います。

【テラオカ電子:「「共同作業ゲーム」のプレゼン(2017)を公開します。」はこちらから】

また、この電子ゲームの紹介動画もありますので、こちらも参考にしてください。

【テラオカ電子:「傾けて交代」はこちらから】

それでは、生徒と取り組んだ探究活動を紹介します。最後までお付き合いください。


目次

孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キットの開発(6

~水準器を使って操作性を向上させた「共同作業ゲーム」~

【1開発コンセプト】

私たちは、高齢者が孫と楽しめ、機能回復ができる電子ゲーム機器を開発している。理由は、現在が、図1に示すように超高齢社会であるからである。1970年には、8.5人で1人の高齢者を支えていた。2010年には2.6人、2050年には1.2人になると予測されている。さらに、単独世帯化が進み、高齢者のみの世帯が増加すると、孫と祖父母の交流が少なくなると考えられる。そこで私たちは、高齢者が元気に生活できる環境を提供する電子ゲームを開発することにした。

私たちの開発コンセプトを図2に示す。子供と父母と祖父母が電子ゲームを通して家族の絆を深めることである。

これまでの開発ロードマップは、図3にようになる。昨年度「運動」を扱った第3世代の電子ゲーム機器を開発したが、今年度は、それの改良を行ない第5世代の電子ゲームを開発した。「水準器」機能を搭載することで傾け運動の状態が分かるようにした。本報告では、新たに開発した電子ゲーム機器の製品概要および評価について述べる。

図1 私たちがとらえる社会問題
図2 開発コンセプト
図3 開発ロードマップ

【2製品設計】

2.1 ハードの構成

図4図5図6に外観図を示す。ゲーム機器は、2段の基板から構成され、上段には、図4に示すように、「水準器」のマトリックスLED、7セグメントLED、ブザー、スタートスイッチなどを配置した。下段には、図5に示すように、CPU、加速度センサ、赤外線LED、赤外線受光素子などを配置した。また、図6に示すように、ゲーム機器は、タッパーケースに収まるようにし、収納もコンパクトにした。

図4 外観図 ①
図5 外観図 ②
図6外観図 ③

2.2 CPUの変更

図5の表に示すように、第3世代のゲーム機器のCPUはPIC16F88であったが、今回、第5世代では、PIC16F877Aを使った。これは、マトリックスLEDを駆動するために、汎用ポートが多数必要であったためである。また、プログラム容量が増えたこともある。なお、本ゲーム機器のプログラムのFlashメモリ使用率は、49.8%である。まだ機能を追加したり改良を加えたりすることができる。

[ここで、使ったCPU:PIC16F877Aは、今でも購入可能(現在1000円)ですが、古いタイプのマイコンです。ただし、このメーカ(マイクロチップテクノロジー)のPICマイコンは、古くても製造中止になることが少ないと聞いています。なので、長く使うことができるのですが、さすがにこれは更新していく必要があります]

2.3 ゲームの動作

ゲームの動作を、図7図8図9図10に従って説明する。本電子ゲーム機器は、2台で楽しむが、一方を起動後、5秒以内にスタートスイッチを押すと「親」となり、片方は、何もしないと「子」となる。図7に示すように、子どもが「親」となり、祖父母が「子」となった場合、子どもが、電子ゲーム機器を傾ける。傾けた回数がカウンターに表示される。このようにして子どもは「課題」を設定する。「課題」を設定したら、スタートスイッチを押して、赤外線通信で「課題」すなわち傾けた回数を祖父母に送信する。

次に図8に示すように、「課題」を受信した祖父母は、「課題」の回数分だけ、電子ゲーム機器を傾ける。これを「課題」の「処理」という。「課題」が「処理」できたら、図9に示すように、祖父母は、電子ゲーム機器を傾けて、「課題」を設定し、スタートスイッチを押して、赤外線通信で「課題」を子どもに送信する。

図10に示すように、「課題」を受信した子どもは、「課題」の回数分だけ、電子ゲーム機器を傾け、「課題」を処理する。この一連の動作を3回繰り返すと終了となる。この一連の「共同作業」ができたら音楽がブザーから鳴る。音楽は「カエルの歌」である。

以上のように、本電子ゲーム機器は、展開型・繰り返しゲームである。

図7 ゲームの動作 ① 
図8 ゲームの動作 ② 
図9 ゲームの動作 ③ 
図10 ゲームの動作 ④

2.4 加速度センサの取り込み

傾きは、加速度センサのy軸の出力電圧をCPUでAD変換して用いている。x軸の出力電圧は使っていない。z軸は、水平に置かれているかどうかの判定に利用している。使用した加速度センサは、KXR94-2050である。

2.5 水準器のプログラム

「水準器」のプログラムは、参考文献(6)に掲載されているプログラムを参考に移植した。傾きをマトリックスLEDで「直線」として表示する関数に工夫がある。

2.6 ブザーのプログラム

ブザー音は最初、「カエルのうた」を流していましたが、ところどころ音程がズレたり音が聞こえないなど問題があった。しかし、AITサイエンス大賞への発表までに改良をし、「たきび」と「カエルのうた」の二種類の歌が流れるようにした。

【3評価】

3.1 専門家インタビュー

平成29年6月15日に、介護サービスセンターの施設長様、職員の方に、高齢者にゲームを使ってもらう上での注意事項などをインタビューした。図11にその様子を示す。指摘事項として、ゲームのストーリーや、メッセージを明確にしないと理解が難しいことや、やらされた感を持たせないように楽しい雰囲気を作ることがあった。また、工業と福祉には共通点があるという指摘もあった。これは、工業で製品を開発する際には、試作品を作り、評価して改良をおこなうが、福祉も同じで、考えた施策を実施し、評価して改善していく点である。インタビュー後学校に戻り、グループで対応を協議した。本電子ゲーム機器のメッセージを分かりやすくするために、笑いのあるストーリー「劇」を交えた実演を行うことにした。

3.2 高齢者の観察

平成29年7月6日に、再度、介護サービスセンターを訪問した。今回は、実際に高齢者に本電子ゲーム機器を使ってもらい感想をインタビューした。その様子を図12に示す。ゲームの説明では、「劇」を行なって説明し、楽しい雰囲気もできた。感想として、「まあまあ面白い」という声を頂いた。

3.3 中学生の観察

平成29年8月3日に、本校で中学生の体験入学があり、そこで本電子ゲーム機器を使ってもらった。その様子を図13に示す。中学生のアンケート結果では、ゲームの操作性に関しては、「わかりやすい」が8割以上を占めた。ゲームの面白さに関しては、「面白い」と「やや面白い」を合わせると8割を超えた。おおむね好評であった。

図11 専門家インタビューの様子
図12 高齢者の様子(春日井市介護サービスセンター訪問)
図13 中学生の様子とアンケート結果

【4おわりに(まとめと今後の予定)】

以上、本研究では、「子どもが勉強できて祖父母と一緒に楽しめる電子ゲームがあれば、高齢者も長く使ってくれるので、リハビリ効果が上がるのではないか」という仮説の基で、孫と高齢者のインタラクティブ性を「運動」を通じて行う共同作業ゲームを製作し、評価を行った。

本ゲーム機器の「運動」は、ゲーム本体を傾ける腕のリハビリである。これは、昨年度、第3世代の電子ゲーム機器の運動が、本体の「回転と持ち上げ」で、前に屈んだ姿勢で行うものであったため、今年度は姿勢の良い状態での運動を目指した。また、運動の様子がユーザーによく分かるように「水準器」を搭載した。この機能は、加速度センサで傾きを検出し、その状態を水準器に表示することで実現した。水準器の表示は、高齢者や中学生において良い評価を得た。

観察として、専門家、高齢者、中学生にインタビューした。専門家からは、ゲームの説明方法のアドバイスを頂き、高齢者、中学生からは、楽しんで使ってもらえることを証明した。

今後もリハビリ効果のある運動を提案し、孫と高齢者が楽しめる電子ゲーム機器を製作していく。

謝辞

本研究にあたり、お忙しい中ご協力頂いた、社会福祉法人 介護サービスセンターのスタッフ並びに利用者のみなさまに深く感謝致します。また、今後も介護サービスセンターとの交流を継続していきたいと考えています。また、詳細なアンケートに丁寧に答えてくれた中学生のみなさまに感謝します。

最後にこのような研究の場を提供していただいている、愛知工業大学エクステンションセンターAITサイエンス大賞に深く感謝申し上げます

(参考文献)

  • 坪内、鈴村、山中、戸田:『高齢者向け電子ゲームの感性価値創造』第15回AITサイエンス大賞 研究発表論文集 第15号 平成28年度 AIT愛知工業大学
  • 溝口、松井、馬塚、村竹、吉田、多賀:『孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キットの開発(4)』第15回AITサイエンス大賞 研究発表論文集 第15号 平成28年度 AIT愛知工業大学
  • 多賀、遠藤、長友、原、藤谷:『孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キットの開発(3)』第14回AITサイエンス大賞 研究発表論文集 第14号 平成27年度 AIT愛知工業大学
  • 荒井、安藤、浦嶌、加藤、谷口、中根、中山、牧野、近藤、松原、佐々木、工藤、柴田:『孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キットの開発(2)』第13回AITサイエンス大賞 研究発表論文集 第13号 平成26年度 AIT愛知工業大学
  • 宮城、太田、伊藤:『孫が作る高齢者向け電子ゲーム機器の組立キットの開発』第11回AITサイエンス大賞 研究発表論文集 第11号 平成24年度 AIT愛知工業大学
  • 鈴木哲也:『PICとC言語の電子工作』2009年 株式会社ラトルズ

【本探究活動のまとめ】

この探究活動では、生徒のみなさんが、積極的に動いてくれたことが印象に残っています。特に、介護施設を2度訪問しましたが、そこでの経験を踏まえて、多くのアイデアを出し、実際に実践してくれました。

生徒たちが、どの程度この活動のコンセプトを理解していたかは、今となっては分りませんが、このコンセプトに興味を持って取り組んでくれたと考えています。彼らの感想は、前回(第23回ブログ記事)で述べましたので、今回は、サイエンスコンテストでの講評(コメント)を紹介します。

○○高校は毎年出場しており着実に進歩しているのが伺える。今年度はどのような進歩であるか楽しみに拝見させていただいた。今年度は、ゲーム内容がさらに充実しておりそれに伴って回路の複雑化が予想された。毎年高度化するプログラムやハードウェアに対して、どのように解決していったのかに注目させていただいた。

論文審査において全体の流れや書き方は申し分がない程度までレベルが上がってきていると感じた。今回学生が主に携わった部分はゲームプログラムということであったので、プログラムのフローチャートなどを入れて具体的な説明を入れるとさらに良くなると思われる。

ステージ発表においては最も印象的なのは学生の元気が良いことである。ハキハキと伝えようとする姿勢が見られた。惜しいのは2点、1点目:スライドのどこの部分を説明しているのか分からない点である。ポインタなどで指し示しながら説明できると良い。2点目:第5世代のゲーム機のコンセプトの説明が少ない。製作に話がメインになってしまっていたが、なぜ5世代目を作る必要があったのかを伝えることは重要である。

パネル発表では少し残念であった。他の学校ではパネル発表向けに新たに作っているのに対して、発表スライドを印刷して並べただけという印象である。他人に伝える姿勢を考えて欲しい。

であった。研究の内容には、あまり触れられず、表面的なことの指摘ばかりで、不満ではありますが、そもそも、内容以前の問題ですよという指摘だと理解しています。でも、生徒たちは、長時間にわたりよく頑張ったと思います。

ここまで読んでくれて、ありがとうございます。

ご質問・ご意見・ご感想等がありましたらコメントください。

テラオカ電子 

【イチオシのYouTube動画】

このコーナでは、記事に関連する(関連しないかもしれません)気になるYouTube動画を紹介しています。今回は、冒頭で述べた「会いに行けるアイドル」のコンセプトのAKB48『恋するフォーチュンクッキー』(2013)を紹介します。昨日卒業式がありましたが、前の勤務校での「3年生を送る会」のオープニング動画でこの曲が使われていました。10年前のものですが、今見ても多くのエキストラの方を巻き込んで、素晴らしいと感じます。「未来はそんなに悪くないよ」という歌詞が特にいいですね。コンセプトで正解のない時代の答えをつくりませんか?

「【MV full】 恋するフォーチュンクッキー / AKB48[公式]」

【2024/03/02投稿】

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