第4回 どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?(後編)

皆さん、こんにちは。テラオカ電子です。今回は、第3回で述べた「いじめ」をテーマにした探究活動の後半を述べます。

いじめ」をテーマにした探究活動ー後半

第3回では、【研究の背景】、【研究の目的】そして【研究方法】までを述べました。今回の第4回では、続きの【実験・観察結果】、【考察】、【まとめ】を述べ、最後に本研究活動の【評価】を述べたいと思います。

なお、生徒がサイエンスコンテストで本研究を発表したものを、私が代読した形ですがYouTubeで公開しています。ご視聴いただくと後の話が、良く分かると思います。

【テラオカ電子:「どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?」を公開します」はこちらから】

【実験・観察結果】

では、実験・観察結果です。いきなりですが、生徒2人の誉め言葉をかけられたときの、表情の感情の時系列変化を図5および図6に示します。少し分かりにくいので補足説明をします。4つのグラフは、それぞれの座標が示す誉め言葉をかけられたときの表情の強さを示しています。各グラフの横軸は、誉め言葉をかけられている時間経過で、縦軸は、各表情の感情の強さを示しています。オレンジ色の線が「happy」の感情を示しています。正直申しますと、生徒は、楽しみながら(半分遊びながら)「実験」していますので、計測結果の妥当性も信頼性も低いです。

図5 表情の計測結果(生徒A) 横軸:時系列変化、縦軸:各感情の強さ
図6 表情の計測結果(生徒B) 横軸:時系列変化、縦軸:各感情の強さ

次に、図7に各言葉におけるHappyの感情の平均値を示します。平均値を比較すると、仮説(「We言葉」をかけられるとより嬉しくなる)に反して、「Me言葉」の方がHappyの感情は高い結果となりました。なお、この時の対応のあるt検定では、両側検定(差があるかどうか)において有意にはなりませんでしたので(p=0.69)、「We言葉」と「Me言葉」に差があるとは言えませんでした。

図7 表情の計測結果、Happyの割合

【考察】

 考察では、以下のように整理しました。

  1. 実験・観察結果からは、「We言葉」よりも「Me言葉」の方がHappyの感情のレベルが高く、また「We言葉」と「Me言葉」に統計的な差は見られなかった。従って、本実験・観察結果から、仮説である「We言葉をかけられるとHappyになる」ことを示すことはできなかった。
  1. 実験・観察の妥当性に関しては、被験者が研究メンバーである点が問題である。恣意的なものになっている可能性がある。男女、年齢など幅広く計測する必要がある。また、信頼性に関しては、計測データを沢山とる必要がある。4種類のデータでは、統計的な検定は難しい。
  1. 加えて、誉め言葉についても、様々な状況を取り入れる必要もある。今回は、自分たちの友達同士での誉め言葉に限定されている。さらに、誉め言葉を言われたとき、その時の感情も後で振り返ると変わる場合もあるので、本研究の手法は、その瞬間の感情を捉えたものであることに限定される。

 結論から言うと、この探究活動では、有意義な発見や知見は、得られませんでした。でも言い訳ですが、そう簡単に良い結果は得られるものではないと言うことです。実験方法を再度見直すことも必要ですし、何度も繰り返す必要もありました。ただ、生徒はこの研究活動を通して「感情の可視化」というAIしかできない体験(AIの活用体験)はできたと考えています。

【「信頼性・妥当性」とは】

 信頼性とは、「ある尺度が、時間や異なるサンプル間で一貫して同じ結果を出す度合い」

 妥当性とは、「ある尺度が、その尺度が測定しようとするものを正確に測定する度合い」

図で示すと、以下のようになります。

左図:信頼性はあるが妥当性がない

中図:妥当性はあるが信頼性がない

右図:信頼性も妥当性もある

引用:アンジェリカ・サマロン:「研究における信頼性と妥当性:何が重要かを測る」,

https://mindthegraph.com/blog/ja/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E4%BF%A1%E9%A0%BC%E6%80%A7%E3%81%A8%E5%A6%A5%E5%BD%93%E6%80%A7/

【まとめ】

まとめです。本研究は、どのような言葉をかけられると「いじめ」と感じるかを明らかにするために、仮説を「仲間外れにされた言葉をかけられると「いじめ」を感じるのではないか」と設定しました。

研究方法では、発想を逆転し、仲間意識を持たせた言葉を受けると幸せになると考え、色々な誉める言葉を与えて、その表情を計測しました。その表情の計測には、AI技術を使用しました。

その結果、仲間意識を持たせた言葉をかけられるとうれしくなることは示すことはできませんでした。

考察では、方法の妥当性と信頼性を検討しました。本研究により、この検証方法の可能性を提案することはできたので、今後、妥当性と信頼性を確保して研究を進めていくことになります。

 今回の探究活動では、いじめという、高校生にとって最も関心のある問題に取り組みました。「やってはいけない」と道徳的なアプローチだけでなく、AI技術を使って科学的に問題が解決しようという姿勢を示した研究として意義があったと考えています。

【評価】

最後に、この探究活動の評価を述べたいと思います。

この研究は、2つのコンテストに出しています。

一つは、県内の大学が主催する高校生対象のサイエンスコンテストです。こちらは、プレゼン発表とポスター発表があります。多くの聴衆の前でプレゼンすることは、生徒にとって貴重な経験ですが、他の高校の発表を聴くことも、「井の中の蛙」になることを防ぐことになります。視野が広まります。また、ポスター発表で、大学の先生と「同じ研究者?として対応に議論」できる点が特に良いと考えています。

もう一つは、読売新聞社が主催している日本学生科学賞です。こちらは論文審査だけですが、丁寧な講評が記載された「審査カード」を返してくれます。

「課題研究」の振り返りとして、これら2つの専門家からの講評をフィードバックとして生徒に伝えています。こうすることで生徒のメタ意識が高まり研究方法の理解が深まると考えています。

サイエンスコンテストからの講評では、

  • 顔の表情を使ったビジネスはこれからも進んでいくので、
  • 後輩に引き継いで欲しい。
  • 誉め言葉の作成は、区分けが難しく手間がかかったと思います。今後の課題でもある。
  • パネル発表は、しっかり説明し、質疑応答もできていた。

などが、

また、日本学生科学論文賞の講評では、

  • 高校生に直接関わる問題を取り上げ、情報技術を利用して解決する試みは、意義深く、好感がもてる。
  • 研究の目的が、最終的に何を目指しているのか、研究としての体が整い切れていない印象を覚える。
  • 検証可能な仮説を設定することも大事。

などがありました。

ネガティブなフィードバックが多いわけですが、生徒には貴重な情報が入手できてよかったと、ネガティブなフィードバックに対する見方を変えることが重要であると伝えています。

「フィードバックを最もたくさん得るものが勝ち残る。」ケン・ブランチャード(アメリカの作家)

という、格言もありますからね。

 また、「課題研究」の終盤にAIの活用を提案してもらいました。

ある生徒は、目の不自由な人は対面している人の表情が分からないので不安にちがいないと考えて、相手の表情を教えてくれるAIを提案しました。この探究活動で使った「感情分析ロガー」の新しい活用を考えたわけです。この生徒は、もともと人の感情には敏感でしたが、このようなことを言語化できる勇気がもてるようになったのではないかと考えています。この生徒はAIの活用を考えることを通して人間理解が深まったと思いました。

「課題研究」の最後に、生徒の感想をワードクラウドで表現するとこのようになりました。研究に関して、「面白い」、「楽しい」、「興味深い」などの言葉が見られました。この課題研究をきっかけに研究を楽しむ人生を送って欲しいと考えています。

【「ワードクラウド」とは】

ワードクラウド(wordcloud)とは、文章やテキストから単語の出現頻度にあわせて文字の大きさを変えて視覚化したグラフのことです。

本活動で使用したワードクラウド(User Local AIテキストマイニング)のURLはこちらです。

https://textmining.userlocal.jp/

 最後に、結局、この探究活動の目標(生徒にどのような能力を身につけさせたいか)は何だったかについて述べます(本来は最初に述べるものなのですが)。

 生徒には、「課題研究」を通して「研究の方法を学ぶこと」と伝えています。

具体的には、認知領域(知識・思考・判断)としては、   

  • 実験結果の整理(平均値の算出)ができる。
  • 研究倫理が説明できる。
  • 妥当性と信頼性の意味を説明できる。

で、レベルは、「理解」に設定しました。概ねクリアできました。

運動領域(技能)としては、

  • 表情の計測実験を行うことができる。
  • 誉め言葉を「型」にしたがってつくることができる。

で、レベルは、「模倣」に設定しました。なんとかクリアできました。

そして、情意領域(意欲・関心・態度)としては、

  • AIの活用を提案してAIの興味を高める。

で、レベルは、「反応」としました。良いアイディアを出してくれました。

これで、「どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?」の探究活動の紹介は終わりです。第3回からここまで読んでくれて、ありがとうございます。

ご質問・ご意見・ご感想等がありましたらコメントください。

テラオカ電子 

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【イチオシのYouTube動画】

このコーナでは、記事に関連する(関連しないかもしれません)気になるYouTube動画を紹介しています。今回は、ケツメイシの『友よ 〜 この先もずっと…』です。この曲からは、「友だち」と「いじめ」の微妙な境界線を感じます。上島さんは、私と同い年でもあったので大ファンでした。彼の持論、「笑われようと、笑わせようと、そこに笑いさえあれば、変わりはない」は勇気を与えてくれました。

「ケツメイシ「友よ 〜 この先もずっと…」」

https://www.youtube.com/watch?v=IV7usfiEbms

【2023/11/12投稿】

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