第3回 どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?(前編)

皆さん、こんにちは。テラオカ電子です。今回は、「いじめ」をテーマにした探究活動を述べます。これは、高校3年生が取り組んだ事例です。結論から言うと、身も蓋もない話になりますが、いじめとは真逆の探究活動を行いました。安心してください。

「いじめ」をテーマにした探究活動

最初に【研究の背景】を述べたあと、次に【研究の目的】、【研究方法】、【実験・観察結果】、【考察】、【まとめ】を述べ、最後に本研究活動の【評価】を述べたいと思います。今回は、前編として【研究の背景】、【研究の目的】および【研究方法】までを述べます。

なお、生徒がサイエンスコンテストで本研究を発表したものを、私が代読した形ですがYouTubeで公開しています。ご視聴いただくと後の話が、良く分かると思います。

【テラオカ電子:「どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?」を公開します」はこちらから】

【研究の背景】

では、研究の背景です。この研究は、「課題研究」という授業で行ったものです。「課題研究」は、職業高校(工業高校、商業高校および農業高校など)で3年生が取り組む授業です。私が在籍していた工業高校では、一人の教員に6~10名程度の生徒が配置され、それぞれの教員の指導の下で、1年間、同じメンバーで探究活動を行っていました。私は、自分の「課題研究」の時間を(ちょっとキザですが)「テラゼミ」と呼んでいます。この「いじめ」の探究活動は、この年のメンバーでの3つ目のテーマでした(初めの2つのテーマについても、今後紹介していく予定です)。

最初、生徒たちに、学校生活での一番の問題は何かと問いかけたところ、いじめであると答えました。しかし、「いじめ」というのは、高校生の探究活動としては、大きすぎるテーマなので、難しいと思いました。しかし、生徒の返答が即答(0.1秒)だったので、圧倒された形で、このテーマで進めることになりました。高校生にとって、いや全ての人にとって人間関係は深刻な問題ですね。

当初、私は、昨年度の「課題研究」で製作した「感情分析ロガー」(顔の表情を分類できるAI装置)を使って、プレゼンの練習効果を可視化する研究をしようと考えていました。プレゼンは、笑顔で意欲的に行うのが良いのですが、それを「感情分析ロガー」を使ってプレゼンを練習するにつれ、良くなることを客観的に評価するという研究です。これは、斎藤学氏の「AIで人の表情・可視化する -表情解析の理論紹介と、探究授業における感情認識AIの活用-」を参考にしたものです。斎藤氏は、生徒が探究授業で行ったプレゼンの表情の分析を紹介されています。

【斎藤学氏の「第4回 情処ウェビナー」はこちらから】

生徒の問題意識の高さから、探究のテーマは、「いじめ」と決まりましたので、この「いじめ」と「感情分析ロガー」を組み合わせて研究ができないかと考えました。また、「いじめ」というテーマは大きすぎるので、絞る必要がありました。

ところで、一般に、大きな問題を解決するには、まず細かく分割することが有効です。これは当たり前のようですが、ルネ・デカルトは『方法叙説(方法序説)』の中で、

 「第2の準則は、調べている難問を、可能な限り、うまく解くのに必要なだけ、部分に分割することであった。」(小泉義之訳)

と言語化しました。この教えにしたがって、「いじめ」を、「嫌な言葉をかけられる」ことと、「仲間外れにされる」に、生徒たちと議論する中で分解しました。ここで、「仲間外れにされる」というのは、私が別の授業の余談で「いじめ」の話をした際、「人間が一番怖いのは、仲間外れになることである」と言っていたものです。ちなみに、私が授業で話した「いじめ」の内容は、この高校での離任式でまとめて話をしました。この内容は、YouTube『テラオカ電子』で一般公開しています。ご意見(反論を含めて)・ご感想等があればコメントください。

【テラオカ電子:「離任式(2023/04/12)」はこちらから】

【研究の目的】

 こうして、「仲間外れのような言葉をかけられる」と「感情分析ロガーによる表情の計測」を組み合わせた探究活動をやることに決まりました。研究テーマは、「どのような言葉を言われると「いじめ」と感じるのか?」にしました。そして、研究の問いは、「(いろいろな嫌な言葉があるけれども)仲間外れにされた言葉をかけられると、一番「いじめ」を感じるのではないか?」としました。

すると、気の早い生徒が、仲間外れの言葉を他の生徒にかけようとしました。しかし、これは問題です。直ちにストップさせました。たとえ実験であっても、仲間外れにされる言葉をかけられると、いやな気分になります。また、万が一、その言葉で心に傷を負ってしまうかもしれません。このような研究は倫理的に不適切です。心理学的研究を行う際は、十分注意が必要です。

そこで、発想を逆転し「仲間意識を持たせた言葉を受けると逆に幸せになる」と考え、色々な誉める言葉を与えて、その表情を観察することにしました。最終的に、この研究では、色々な誉め言葉を受けた時の表情をAI技術で記録・分析することで、一番うれしくなるかどうかを検証することにしました。そして、そのような結果が得られたならば、逆に仲間外れにされたとき、いじめを感じると推察できると考えるわけです。大きな問題を分解したのち、発想を逆転させて、無理やりですが研究の形にしました。しかしながらこの展開は、後半の【評価】のところで述べますが、根拠が不明で論理性に問題があると指摘されます。

デカルト先生も、

 「第1の準則は、私が明証的に真であると認識するものだけを真として受け入れることであった。言いかえるなら、速断と偏見を注意深く避けること、また、懐疑に付す事由のないほど明瞭かつ判明に私の精神に現れるものだけを、私の判断の内に含めることであった。」(小泉義之訳)

と、慎重さの大切さを述べています。それゆえ、本探究活動は、模範的事例を示しているわけではありません。半面教師として参考にしてください。

【研究方法】

 研究方法は、①誉め言葉の作成、②表情の計測、③その分析で進めました。当時、マスク生活が日常となっていましたが、それゆえ表情という運動領域のテーマは意味があったと考えています。

①誉め言葉の作成

 では、①誉め言葉の作成を説明します。単に、思いついた言葉を繋げて作成してもよいのでが、より合理的で生産性の高い方法を採用しました。よいアイディアの発想法の基本的な「型」として、「発散と収束を繰り返す」というのがあります。この活動では、この「型」にしたがって誉め言葉を作成しました。

まず、誉め言葉を一人5個自由に考えます。質にこだわらず、とにかくアイディアの「種」を作ります。これは、発散にあたります(図1に生徒が考えた誉め言葉を示します)。

次に、その誉め言葉を横軸の「内面的か外面的」かと、縦軸の「集団的か個人的」かの2次元マトリックスに配置します。この2次元マトリックスにポジショニングする操作は、ビジネスの世界で「コンサルタント」と言われる方がよくやる手法です。今回は、これを真似てみました。軸の名前ですが、横軸の「内面的・外面的」と、縦軸の「集団的・個人的」というのは、自由に考えた誉め言葉を観察することで導きました。手前みそですが、まずまずのできだと考えています。これは、収束にあたります(図2:誉め言葉の左の番号がマトリックスの位置を示しています)。

次に、配置した区分に従って誉め言葉をブラシアップします。言葉の意図が明確になりましたので、それを強調します。これは発散にあたります。そして、最後に、マトリックスの第1象限と第2象限を「We言葉」、第3象限と第4象限を「Me言葉」としてまとめました。これは、縦軸で分けたことになります。いじめの本質が、「仲間はずれ」にあると我々は考えていますので、大きくこの軸で分けました。最初から2つに分ければ早かったのではないかという考えもありますが、横軸の「内面的・外面的」の軸をつくることで、バランスの良いものになったと考えています。「We言葉」、「Me言葉」というネーミングも、どこかのコンサルタントが使っていたものです(どこで聞いたか忘れてしましました)。これは収束にあたります(図3)。

このように、発散と収束を繰り返して誉め言葉を作成しました。ここでは、生徒たちは、誉めことばを創作する言語活動を通してアイディア生産のプロセスの「型」を体験したことになります。

 ②表情の計測

次に、②表情の計測を述べます。表情は、ラズベリーパイにAI技術を実装した「感情分析ロガー」で計測します。本装置の外観を写真1に示します。この装置は、前年度の生徒(先輩)が「漫才の可視化研究」で製作ものです(この研究の内容も、別の機会に述べます)。装置のハードウエアはラズベリーパイで構成されており、ここでの表情分類技術は、JellyWare株式会社が公開している『OpenVINO™でゼロから学ぶディープラーニング推論』で公開されているプログラムを参考にしました。「感情分析ロガー」は、表情の時系列変化を記録できます。具体的には、5つの感情(「Neutral(無表情)」、「Happy(幸せ)」、「Surprise(驚き)」、「Sad(悲しみ)」および「Angry(怒り)」)の割り合いをCSVファイルに時系列に記録して、終了時にグラフが表示するようになっています。

表情の計測装置の外観

【JellyWare株式会社のWebサイトはこちらから】

https://monomonotech.jp/main/#/

【テラオカ電子:「感情分析ロガーをつくりました」はこちらから】

【「ラズベリーパイ」とは】

もとは、英国ケンブリッジ大学の教授らが設立した「ラズベリーパイ財団」が開発した名刺サイズのコンピュータです。教育目的で開発されました。多くのプログラム言語が扱えますが、「Python(パイソン)」が扱えるのが特徴です。

 当時学校では、自作の教材は、ネット環境を使えなかったので、AI技術をスタンドアローンで動かすことができるラズベリーパイを使いました。

【「CSVファイル」とは】

CSVファイルとは、Comma Separated Valuesの略で、各項目がカンマ(,)で区切られたテキストデータのことです。データの容量が軽く、読み書きや編集が容易であるという特徴があります。

引用:データの時間:https://data.wingarc.com/csv-excel-2-19747#CSV

 計測は、誉め言葉を、2人の被験者(生徒)に、図4に示す順でかけて行いました。被験者を「感情分析ロガー」のUSBカメラで顔を撮影しながら、被験者に向かって誉め言葉を言います。誉め言葉は、「We言葉」と「Me言葉」が交互になるように配置しました。これは、言葉の順番によるキャリーオーバー効果を低減するためです。

【「キャリーオーバー効果」とは】

「キャリーオーバー効果とは、前に置かれた質問が、後の質問の回答に影響を与えることです。キャリーオーバー効果を無くすことは不可能なので、影響を最小限に止めるようアンケートの質問の順序を考えなければいけません。」

引用:統計Web:https://bellcurve.jp/statistics/blog/14060.html

 

③分析

最後に③分析を述べます。2人の感情の時系列グラフからその傾向を読み取ります。また、Happyの感情の平均値を求め、「We言葉」と「Me言葉」に差があるかどうかを統計的に検定します。

長くなりましたが、今回はここまでです。次回は、【実験結果】からです。

ご意見・ご感想等がありましたらコメントください。

テラオカ電子 

目次

【イチオシのYouTube動画】

このコーナでは、記事に関連する(関連しないかもしれません)気になるYouTube動画を紹介します。今回は、あみんの『待つわ』です。この曲は、他人から嫌な言葉をかけられても、強い意志をもって生きる姿が歌われています。

「待つわ【あみん】作詞/作曲:岡村孝子 第23回ポピュラーソングコンテスト つま恋本線会「グランプリ受賞曲」受賞後のTV出演(歌詞付)」

【2023/11/12投稿】

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